小学3年からの2年間、父の仕事の都合で、離島に住むことになりました。フェリーから見えてきた島影を、幼い私は冒険に出かけるようなウキウキ気分で見つめていました。でも都会が好きな母は、絶望的な気持ちだったそうです。
これは、離島で迎えた2回の母の日の出来事です。
1話 驚いて喜んでもらいたくて
紅茶の葉が踊る時間
社宅は、古い木造の一軒家。それまでは集合住宅だったので、「家の中に階段がある!」「窓から海が見える!」と楽しい発見に、私は大興奮でした。
でも母は、少し無口でした。荷物がほとんど片付いても、お気に入りのガラスの花瓶やティーポットは、箱から出さずに積んだまま。前の家では、あちこちに置物や花を飾っていたのに、新しい家では何もしません。「紅茶は、お湯を入れて葉っぱが踊るのを見ている時間が好き」なんて言っていたのに、そんな姿を見ることもなくなりました。
プレゼントに花を添えて
5月に入り、「そうだ、母の日に紅茶をプレゼントしよう!」と思いつきました。きっとすごく驚いて、喜んでくれるに違いない。考えただけでワクワクです。当日、母が好きな紅茶はお店ですぐに見つかり、それを包んでもらっているうちに、「花があるともっと良いな」という気がしてきました。
そこで自転車で町外れの一本道を走っていくと、道の横にレンゲがぽつぽつ咲いていました。小さくて迫力はないけれど、集めればきれいな花束になりそう。私は1本ずつ摘んでは、帽子に入れていきました。たくさんたまったところで茎を揃えて左手に持ち、帽子を被り直して自転車に跨りました。ハンドルは右手だけで握り、左手は押さえているような状態です。
クモが出た!
帰り道を急いでいたら、突然目の前にクモが下がってきました。帽子のつばから降りてきたのです。世界一嫌いなクモの突然の出現に、私は悲鳴を上げて、道路脇の斜面を自転車ごと落ちていきました。
もちろん握っていた花は、つぶれて散りました。
ガラスの花瓶とアカツメクサ
紅茶は、前かごから飛び出て無キズでしたが、あちこち痛くて悔しくて、周りにレンゲの代わりになる花もなく、私は泣きながらその辺のアカツメクサを抜きました。
スリ傷だらけ、泥まみれの娘から、「今日は母の日だから」と差し出された紅茶と数本のアカツメクサに、母は驚き、すべてを察したのでしょう。屈んで目の高さを私に合わせ、優しく「ありがとう」と言いました。
翌朝、食卓にはアカツメクサが挿さったガラスの花瓶がありました。今でも紅茶を入れるとき、あの日のアカツメクサを、ふと思い出すことがあります。
2話 大好きな「水玉先生」がママになる!
担任の先生に赤ちゃんが
島の小学校の担任は、若い女の水玉先生。もちろん、本名ではありません。学校の隣の教員住宅の、先生の家には青い水玉模様のカーテンが掛かっていたから、それに水玉模様のブラウスを良く着ていたから、私たちはこっそり水玉先生と呼んでいました。
先生は「元気にあいさつできたで賞」とか、「字がじょうずになったで賞」などお手製の賞状を作っては、私たちを褒めてくれて、みんなそれが大好きでした。3年生の途中でお腹に赤ちゃんができましたが、そのまま4年生でも持ち上がりになってみんな喜んでいたのです。
先生が入院しちゃう!?
ところが、5月の土曜日(当時、土曜日は午前だけ授業がありました)、急に先生が休み、「体調が悪いので、来週本土の病院に入院する」と伝えられました。入院?もう会えないの…?お見舞いに行こうという話が、数人の女子の間で持ち上がり、お小遣いを集めることになりました。翌日曜日は、ちょうど母の日です。
りんごのジュースが好き
私たちはお店の前で待ち合わせて、何を買うか相談しました。
「今日は母の日だから、カーネーションは?」
「母の日と先生は別でしょ」
「でも先生、ママになるんだし」
店の前でいつまでももめている小学生を見かねて、中からお兄さんが声をかけてきました。
「何か探しているの?」
「…先生にあげるお見舞いを」
「お見舞い? あ、もしかして…」
お兄さんは、水玉先生の入院のことを知っていました。私たちは驚きましたが、狭い島のことです。何をするにも地域ぐるみなので、あっという間に伝わっていたのでしょう。
お兄さんは、良いものがあるよ、と私たちを手招きしました。
「先生は、このジュースが好きだから、きっとこれなら喜んでくれるよ」
そこには大きなりんごの絵がついたびんのジュースがありました。集めたお金で2本買えます。お兄さんは、それを箱に入れて包装し、紙のカーネーションをつけてくれました。
ずっとわすれないで賞
しかし、先生は留守でした。私たちは箱に各々ひと言と名前を書いて、玄関先に置いてくることにしました。先生は入院から続けて産休、育休となり、私はその間にまた転校したので、結局その後会うことはありませんでした。
ところがある日、転校先の小学校の私宛に、水玉先生から郵便が届いたのです。中に入っていたのは―。
ずっとわすれないで賞
あなたは、先生に元気になるジュースをプレゼントしてくれました
あの初めての母の日は、これからもずっとわすれないでしょう
あなたの思いやりとやさしさをたたえ、ここにこれを賞します
さて、いかがでしたでしょうか。
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定番のお花もいいですが、今年の母の日はお母さんを想って、喜んでくれそうな飲み物の贈りものはいかがですか?
素敵な母の日になりますように♪